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今度は、徳次も完全にびつくりしてしまつた。彼のきよろりとした眼には、どこか少し先きで火事があると聞いた時のやうに、何だか落ちつかない、興昧ありげな色が浮んでいた。
「うむ、判る?――ね?」
房一が云ひかけると
と、大声で訊いた。
「こゝの消防演習をやつたのだ。そんなに騒ぐことはない」
「早く早くつたつて、もうお支度はちやんとできてますわ。あなたが遅くかへつて来といて――」
今泉の読んだのは予定記事だつた。だが、早のみこみと、簡単な熱中家が造作もなくつくり上げる本当らしさ、それによつてなほ熱中するといふあの癖とによつて、彼はそれをすでにあつたことのやうに話しこんだ。若し、他にまだ話したくてたまらないことがなかつたら、この報告はもつとくはしく、もつと飛躍しただらう。
「うん、もうさつき帰つたよ」
ときは房一を見ると、殆どすがりつきさうになつた。そして、口をひきつらせ、上半身を揉むやうにして訴へかけた。
「どうして?血はつゞいていなくてもこゝの家とは親類ぢやありませんか」
「うむ、――え?」
「はあ」
閑静で温泉もあるという家は売家だから住めない。貸家の方はたいがい山の上の温泉のない家で、ぜひ住んでくれないかと云ってきた空別荘も、景勝閑静な山荘であったが、温泉がなかった。